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二村ヒトシ『恋とセックスで幸せになる秘密』〜恋で失敗をくり返す乙女の処方箋〜

良い本に出会いました。出版から少し経っているので旬はすぎてしまったけど紹介せずにはいられない。

「彼氏のことが好きだけどすごく辛い」
「セックスしてるけど付き合ってない」
「ヤリ逃げされないために安売りしちゃダメっていうけど…」

こんなことを悶々と考えているあなたにピッタリの本です。いえ、体裁は女性向けになっていますが男も一度は読んでおくべき本でしょう。


著者はAV監督の二村ヒトシさん。25年間の監督遍歴、プライベートの男と女の関係をずーっと考えてきたなかで生まれた彼の哲学を書いた本です。自分が恋愛を切り口にこのブログをスタートさせたときに書いた「同じことを繰り返し続けるのはもったいなくないですか?」という思いにすごく共振する部分が多かった。

冒頭のまえがきから惹き込まれる。二村さんが受けたインタビューが活字になってみると、そのトーンに違和感をおぼえたそうだ。「二人が愛しあって、セックスを楽しむ」ではなく、「男性に飽きられないように、捨てられないために、セックスをがんばろう」という雰囲気になっていた、と。これを感じ取る鋭敏さにすごく信頼感を持ってしまった。女性誌を中心にはびこる男に愛される女になるためにがんばろう、という不自然さへの視点。

"心の穴"に気付くこと、受け容れること

本書は"心の穴"をキーワードに語られる。誰しも心に"穴"を持っている。これは心の傷とは少しニュアンスが違い、長所にも短所にもなりうる特性や個性のようなもの。そして、恋愛において上手くいかないパターンは「自分の"心の穴"を埋めてもらうこと」を恋愛に求め、恋愛対象求めるから歪みが生まれる。自分の"心の穴"を見つめ直す機会がそがれる、というもの。その図式から抜け出ないことには恋で(恋だから)苦しみ続ける、と。

わかりやすいパターンでは、インチキ自己肯定している男と、尽くすことにやりがいを感じる女のパターン。自分の心の穴に気づいていないため、それを食いものにされてる、と。ひと昔前に流行った親が作ったトラウマ=AC(アダルトチルドレン)系の議論や、メンヘラについての言説に相似している点はあります。(なお、本書ではNGも含め、理想のパターンについても紹介されている)

たとえば恋愛の相談を受けたときに感じるんだけど、無意識に現状の自分を温存したがる女の子(男)ってやっぱり多いと思うんですよ。相手のせいにしたり、自分はこうだからって開き直ったり。たしかにそう考えるのはラクなんだけど、その恋愛が終わったあとに成長がまったくないから次も同じようなことやって悶々してたり。良い悪いの話じゃなくて、そのときの教訓を誠実に受け取らないと、やっぱり次のステップはないと思う。まぁ大して仲良くない女の子には「そうだね〜」って言ってしまうんだけれど…。

恋愛が上手くいかないパターンには、「何が上手くいかない理由か分からない」「分かっちゃいるがやめられない」どっちのパターンもあると思うんだけど、どちらにせよ、自分の在り方とこれからについてのヒントを与えてくれる。

"恋と愛の違い"

二村さんは「自分を好き」「相手を好き」にはそれぞれ2種類あると表現します。恋=ナルシシズムであり自分本位、愛=そのままを肯定すること。自分を大事にして相手を受け容れること。"心の穴"のある自分を受け容れて、それも含めて"自己(他者)肯定"できる人がはじめてフラットに相手を"愛する"ことができるという趣旨です。本当に噛み砕いて優しく語りかけてくれます。よく言われる「恋と愛は違う」に対して、ひとつの解を出しているように思う。

これを読んでいて思い出したのが少年時代に読んだこの本。

この本は欠落している自分に対する「自分探し」とも「理想のパートナー探し」とも受け取れるんだけど、ストーリーの過程と終着点は連想させられるものが多かった。欠落自体が悪いんじゃない、それも含めての自分、という。

俺個人の嗜好と傾向として、長期的なパートナーには"自立していること"を求める。本当は自分がいなくても生きていけるんじゃない?くらいの強さを持ってる人。でも、本当に辛いときには恋人に遠慮なく甘える素直さと柔軟さを持ってる人がすごく好き。自分がどうしてそういう人を選ぶのかも本書で少し分かった気がする。

あと心に残っていたパートナーのひとことを思い出した。ある日、共通の知人から恋愛が上手くいかないって話を聞いたあとに、ふたりでそのことを話してて、俺が「何でなんだろうね?」って言うと、彼女がこう言ったんですよね。「みんな相手に期待しすぎるんじゃないかな?こうあってほしい姿を相手に求めるから裏切られたとか、イライラしたりするんだと思う。」本書を読んでその言葉ってけっこう大事なことを言ってたことに気づいた。

理想のセックスについて

理想のセックスとは何か?についても書かれています。どこまで痛感できるかは読者次第だろうけど、要旨としてはセックスは自分にとっても相手にとっても幸せで満たされる行為になっているか?ということ。これだけだとよくある言説のようですが、本書の流れの中で読み進めていくと、高い納得感があると思います。本書の指摘通り、ふたりオナニーをしている人は多いかもしれない。

このブログの読者には「女好きは女をヤリ捨てすればOKと思っている人種だ」って浅はかな反感を持つ人が一定層いるかもしれない。けど実際のところ、普通の神経をしてたらセックスだけを目的にしてたらすぐに飽きる。まぁ中には「どれだけ数を打てるか?」がポリシーな人も多いけれど、そもそも俺はあまり性欲に突き動かされることはないのでその感覚がよく分からなかったりする。(そもそも性欲第一なら文章書かんって…。)
女の人にあまり不自由していない人たちには共感してもらえると思うんだけど、延々とそれを繰り返すのってしょうもないじゃないですか。他の別のものを求めたり、ヤることに対して変な執着がなくなったりするもの。そういうしょうもなさの正体みたいなものに触れている点でも非常に興味深い。

その他 読みものとして

マグロ化現象の言説は単純に面白かった。自分は活動を活発にする時期が断続的に現れるんだけど、そういうときって挿入ではなく、確定した時点で満足感が達成されてたりしてた。で、行為は指摘通りけっこう騎乗位オンリーだったことに胸が痛くなりました(笑)あっ、ちなみに前戯と後戯は心の底から好きです。

それとポジティブヤリマンとネガティブヤリマンもあるあるでウケた。自分には3人組の女友達がいて、そのなかのふたりとやってるってメチャクチャな関係なんだけど、あっ、まぁこれ自慢が入ってるんですけどね、その子らは「まんまポジティブヤリマンだ!」って感じで。ほんとそれ自体で自分の価値が上がったとも下がったとも思ってないし、その後も全然ふつーにみんなで飲んだりできるメンタリティの子たちで。まぁヤリマンが良いってわけじゃないけど、あっけらかんとしてる娘がやっぱいいよなーって思ったり。蛇足ですが俺の好みはヤっていない残りのひとりというせつなさよ…。

あと、こんな風にチャートを参考に「お悩み」毎につまみ読みできるような編集になっているので、書店で気になる箇所をパラパラと読んでみて購入してみても良いんじゃないかしら。山本直樹さんの挿絵も良い感じ。恋愛に苦しんでいる、恋愛がどうでも良くなってしまっているすべての女性に読んでほしいし、普通の男性にもオススメしたいです。生きるうえでのひとつの「心構えのようなもの」が読みやすい筆致とともに書かれていると思います。

参考文献

新刊のようです。処女作を大幅加筆したもの。まだ未読ですが、こちらも非常に良さそうです。このあいだイベントがあったみたいで行きたかった…。

二村ヒトシさんについてのリンク

男のインチキ自己肯定を見抜け! 二村ヒトシが恋愛至上主義を一刀両断 - サイゾーウーマン はてなブックマーク - 男のインチキ自己肯定を見抜け! 二村ヒトシが恋愛至上主義を一刀両断 - サイゾーウーマン

本書が出た際のインタビュー。

キモい男、ウザい女。|二村ヒトシ|cakes(ケイクス) はてなブックマーク - キモい男、ウザい女。|二村ヒトシ|cakes(ケイクス)

cakesでの連載。全文読むには有料ですが、このサイトの連載面白いの多い!